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東京地方裁判所 平成5年(ワ)3317号 判決 1996年12月17日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

被告らは、連帯して、原告有限会社ジーアイに対し金一〇億円、原告武陽産業株式会社に対し金五億円、原告根本秀世に対し金五億円、及び右各金員に対する平成四年一二月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告ネオポリスジャパン株式会社(以下「被告ネオポリスジャパン」という。)及び同小野邦勝(以下「被告小野」という。)との間で、同被告らを売主、原告らを買主とする土地売買契約を締結した原告らが、同被告ら及び同被告らの売主としての各債務を連帯保証した被告本吉正彦(以下「被告本吉」という。)に対して、被告らが右各債務の履行を怠ったとして、右売買契約をそれぞれ解除するとともに、原状回復請求権(又は不当利得返還請求権)に基づき、支払済代金相当額の金員(原告有限会社ジーアイ〔以下「原告ジーアイ」という。〕につき二億二〇〇〇万円、原告武陽産業株式会社〔以下「原告武陽産業」という。〕につき一億五五〇〇万円、原告根本秀世〔以下「原告根本」という。〕につき一億七〇〇〇万円)、及び右売買契約上の約定による損害賠償請求権に基づき、違約金等(原告ジーアイにつき八億五七一四万四〇〇〇円の内七億八〇〇〇万円、原告武陽産業につき六億四二八五万八〇〇〇円の内三億四五〇〇万円、原告根本につき六億四二八五万八〇〇〇円の内三億三〇〇〇万円)、並びに右契約解除の日から商事法定利率年六分による遅延損害金の支払いをそれぞれ求めている事案であり、被告らは、主として右各売買契約の通謀虚偽表示による無効又は詐欺による取消しを主張しているものである。

一  前提となる事実(括弧内掲記の証拠により認定した事実の他は、当事者間に争いがない。)

1 原告らは、平成四年七月一三日、被告ネオポリスジャパン及び被告小野との間で、埼玉県熊谷市玉井所在の一団の土地約二万五〇〇〇坪(以下「本件各土地」という。)について左記の約定で買い受ける旨の契約(以下、併せて「本件各契約」という。)をそれぞれ締結し、被告本吉は、同ネオポリスジャパン及び同小野の売主としての債務につき連帯保証した。

<1> 売買代金(二条)

合計一九億二五八八万円(但し、原告ジーアイ七億七〇三五万二〇〇〇円、原告武陽産業五億七七七六万四〇〇〇円、原告根本五億七七七六万四〇〇〇円。)

<2> 代金支払方法(三条)

(イ) 原告ジーアイ

平成四年七月一三日限り(手付金) 九〇〇〇万円

同月一四日限り(中間金) 四〇〇〇万円

同月一五日限り(中間金) 五〇〇〇万円

同月三〇日限り(中間金) 四〇〇〇万円

同年九月三〇日限り(中間金) 二〇〇〇万円

同五年七月三〇日限り(残代金) 五億三〇三五万二〇〇〇円

(ロ) 原告武陽産業

平成四年七月一三日限り(手付金) 六二五〇万円

同月一四日限り(中間金) 三〇〇〇万円

同月一五日限り(中間金) 三二五〇万円

同月三〇日限り(中間金) 三〇〇〇万円

同年九月三〇日限り(中間金) 二〇〇〇万円

同五年七月三〇日限り(残代金) 四億〇二七六万四〇〇〇円

(ハ) 原告根本

平成四年七月一三日限り(手付金) 七〇〇〇万円

同月一四日限り(中間金) 三〇〇〇万円

同月一五日限り(中間金) 四〇〇〇万円

同月三〇日限り(中間金) 三〇〇〇万円

同年九月三〇日限り(中間金) 二〇〇〇万円

同五年七月三〇日限り(残代金) 三億八七七六万四〇〇〇円

<3> 被告ネオポリスジャパン及び同小野は、平成四年八月二七日限り、原告らに対し、本件各土地の各所有者が作成した各売渡承諾証(各印鑑証明付)の原本を交付する(五条)。

<4> 被告ネオポリスジャパン及び同小野は、原告らから手付金及び平成四年七月一四日付の中間金の支払いを受けるのと引き換えに、本件各土地につき、登記簿上の所有者から原告らへの所有権移転請求権仮登記をする(六条)。

<5> 被告ネオポリスジャパン及び同小野は、平成四年九月二二日限り、原告らに対し、本件各土地の隣接地所有者全員の各境界確認書(各印鑑証明書付)を交付する(八条)。

<6>(イ) 被告ネオポリスジャパン及び同小野は、原告らに対し、平成四年九月二九日までに、訴外株式会社北辰商事(以下「北辰商事」という。)が原告らから本件各土地を売買代金合計四五億七七八七万八八〇〇円で買い受けることを北辰商事と連帯して請負う(一一条一項)。

(ロ) 被告ネオポリスジャパン及び同小野は、右の請負債務を履行することができなかったときは、原告ジーアイに対し八億五七一四万四〇〇〇円、原告武陽産業に対し六億四二八五万八〇〇〇円、原告根本に対し六億四二八五万八〇〇〇円をそれぞれ損害金として支払う(一一条四項)。

<7> 被告ネオポリスジャパン及び同小野は、一三条(解約権の留保特約)の解約申入れをする場合には、解約承諾料として、原告ジーアイに対し九億二八五七万六〇〇〇円、原告武陽産業に対し六億九六四三万二〇〇〇円、原告根本に対し六億九六四三万二〇〇〇円を支払う(一四条一項)。

<8>(イ) 債務不履行により本件各契約が解約された場合に債務不履行をした者がその相手方に支払うべき損害金は、売買代金の二〇パーセントとする(一六条一項)。

(ロ) 一六条一項の場合であっても、一一条四項の金員全額及び一四条一項の金員全額を一六条一項の金員に加算して支払う(一六条三項)。

2(一) 原告ジーアイは、被告ネオポリスジャパン及び同小野に対し、以下のとおりの金員を支払った。

<1> 平成四年七月一三日 九〇〇〇万円

<2> 同月一四日 四〇〇〇万円

<3> 同月一五日 五〇〇〇万円

<4> 同年九月二九日 四〇〇〇万円

(二) 原告武陽産業は、被告ネオポリスジャパン及び小野に対し、以下のとおりの金員を支払った。

<1> 平成四年七月一三日 六二五〇万円

<2> 同月一四日 三〇〇〇万円

<3> 同月一五日 三二五〇万円

<4> 同年八月五日 三〇〇〇万円

(三) 原告根本は、被告ネオポリスジャパン及び同小野に対し、以下のとおりの金員を支払った。

<1> 平成四年七月一三日 七〇〇〇万円

<2> 同月一四日 三〇〇〇万円

<3> 同月一五日 三〇〇〇万円

<4> 同年九月二九日 三〇〇〇万円

3 原告らは、被告らに対し、平成四年一二月一六日から一九日の間に到達した内容証明郵便で、右書面到達後七日以内に、前記1<3>ないし<5>の各債務(以下「本件各債務」という。)を履行するよう催告するとともに、右期間内に右各債務の履行がない場合には、本件各契約を解除する旨の意思表示を行った。

3 被告らは、右到達後七日を経過した日である平成四年一二月二六日になっても本件各債務を履行しなかった。

二  争点

1 本件各契約は通謀虚偽表示によるものか。

(被告らの主張)

(一) 本件各契約に至る経緯

(1) 被告ネオポリスジャパンは、平成三年八月ころから、埼玉県熊谷市玉井所在の土地約三万坪(後に約三万五〇〇〇坪に規模を拡大。)を転売目的で買収することを手掛けてきたところ、そのうち第一期分約一万坪について地権者らとの交渉がまとまり、その代金を支払うこととなったため、同被告の代表取締役であった被告小野は、右代金の融資先の斡旋を友人の被告本吉に依頼した。

(2) 平成四年五月上旬ころ、被告本吉は、訴外株式会社寿地建設(以下「寿地建設」という。)の代表取締役であった訴外津吹福寿(以下「津吹」という。)を被告小野に紹介し、同被告と津吹とが話し合った結果、被告ネオポリスジャパンが地権者らとの買収交渉、転売先との交渉等の実質的業務を、寿地建設が右交渉及び買収等に要する資金の提供をそれぞれ担当する内容の共同事業を遂行する旨の合意がなされた。

(3) 津吹は、平成四年六月一五日、寿地建設が右合意に基づく被告ネオポリスジャパンに対する第一回目の資金提供(一億二〇〇〇万円)をする際、「寿地建設は、資金を作るため税金対策上種々の細工をするので、事実とは違っていても従ってほしい。」などと述べ、津吹が同行してきた原告らのほか、訴外有限会社レディースカンパニー(以下「レディースカンパニー」という。)、同有限会社秀陽(以下「秀陽」という。)、同株式会社丸岡興産(以下「丸岡興産」という。)の六名を寿地建設のダミーとして利用するとして、その関係者を被告小野及び同本吉に紹介した。

そして、寿地建設は、第一期分の買収費用として、同年七月一三日に二億三〇〇〇万円、同月一四日に八〇〇〇万円、同月一五日に一億九五〇〇万円をそれぞれ追加して支払うこととされた。

(4) 平成四年七月一三日、寿地建設が被告ネオポリスジャパンに二億三〇〇〇万円の資金提供をするに当たり、津吹は、持参した「売買のための基本契約書」を示し、被告小野及び同本吉に対して、本件各契約の売主又はその連帯保証人として調印するよう求めるとともに、次のとおりの説明を行った。

<1> 寿地建設は表に出したくないので、前記原告ら外三名のダミーが分散して資金を提供したことにする。

<2> 本件各土地の転売で多額の利益が出そうなので、節税対策として、被告ネオポリスジャパンを売主、前記六名のダミーをそれぞれ買主とする売買契約書を作成し、転売利益は、被告ネオポリスジャパンがこの売買契約に違反して原告らに違約金を支払ったという名目で利益を分配する方が税率が低く、対税上はるかに有利である。したがって、右契約書は、売主が契約違反になるような条項とし、又これの真正さを装うべく公証役場で認証を受けておくが、これはあくまで節税対策のためであるから心配はいらない。

<3> この契約書は、形だけのもので正式なものではなく、前記節税対策の目的にだけ使用するものであって、売主や買主の個人的責任を追求することはないので、心配することは何もない。

(5) 被告小野及び同本吉は、津吹の右説明を了承し、被告らは、前記六名のダミー毎に作成された各「売買契約のための基本契約書」に売主及び連帯保証人としてそれぞれ調印した。

(6) 被告ネオポリスジャパンは、寿地建設から、第一期分一万坪の買収費用として、前記平成七年六月一五日の一億二〇〇〇万円のほか、同年七月一三日に二億三〇〇〇万円、同月一四日に八〇〇〇万円、同月一五日に一億九五〇〇万円の合計六億二五〇〇万円の提供をそれぞれ受けて、これを第一期分一万坪の買収代金の支払いに充て、さらに第二期分二万五〇〇〇坪の地権者らに対する取りまとめ費用として同年八月四日に五〇〇〇万円、同年九月一八日に三五〇〇万円、同月二九日に九〇〇〇万円の合計一億七五〇〇万円の提供をそれぞれ受けた。

(二) 通謀虚偽表示

右のような本件各契約に至る経緯に照らせば、被告ネオポリスジャパンに対して支払われた金員は、原告らによって出捐されたものではなく、寿地建設により本件各土地の買収転売を目的とした共同事業の資金八億円の一部として提供されたものであり、また、本件各契約は、形式上は売買契約の形態をとっているものの、専ら右事業における税金対策のため不履行を目的として締結されたものであって、原告ら及び被告らがいずれも本件各契約の当事者に何ら売買契約の効力を及ぼす意思がないのに、その意思があるかの如く仮装することを合意した上で締結されたものであるから、通謀虚偽表示によるものとして無効である。

(原告らの主張)

(一) 被告らの主張は否認ないし争う。

(二) 被告らが主張するように、真実売買契約を締結する意思がないにもかかわらず、八億円もの大金を原告らが被告らに支払うということは考え難いのみならず、被告らの主張する節税目的は、本件各土地が被告らから原告らに売却され、原告らがこれを第三者に転売することによって、原告らの買取価格と右第三者の買取価格との間の差額相当の利益が上がって初めて問題となるのであって、いわば原告らが本件各土地を真実買い取る意思がある場合にのみこれを考慮する必要が出てくるものであるところ、仮に本件各契約が不履行となれば、買主である原告らは本件各土地を取得することができず、第三者に対する転売も不可能となり、何ら利益が生じないという結果になるから、右利益に関する節税等ということは全く問題とならなくなる。したがって、被告らが、本件各契約が節税目的のためになされたと主張することは、真意のもとに契約が締結されたことを自認することに他ならない。

2 本件各契約は津吹の詐欺によるものか。

(被告らの主張)

(一) 前記本件各契約に至る経緯のとおり、原告ら三名は、形式的には本件各契約の当事者であるものの、いずれも寿地建設のダミーであって、その実質は寿地建設と同一ないし履行補助者として同一視すべきものにすぎず、本件各契約の当事者は津吹あるいは寿地建設であるというべきであるところ、寿地建設の代表取締役であった津吹は、真実は被告ネオポリスジャパンによる造成事業に最後まで協力する意思はなく、売買契約の当事者として転売利益を独占するつもりであったにもかかわらず、これを秘し、前記のとおりの説明を行って被告らを欺き、被告らをして、本件各契約を形式的に締結することで転売利益に対する節税が可能となり、より多くの利益配分を得られるものと誤信せしめ、もって本件各契約の契約書に調印させた。

(二) したがって、本件各契約は、その実質的当事者である津吹の詐欺により締結されたものであるから、被告らは、本訴において右各契約締結の意思表示をいずれも取り消す旨の意思表示をした。

(原告らの主張)

(一) 被告らの主張は否認ないし争う。

(二) 原告らは、被告らに対し、八億円を支払ったものであり、売買契約として被告らを拘束する意思なくしてこのような多額な金員を支払うことは考えられない。

3 原告らの被告らに対する不当利得返還請求権の有無

(原告らの主張)

仮に、本件各契約が通謀虚偽表示又は詐欺によるものであったとしても、原告らが、被告らに対し、前記前提となる事実2記載のとおり、本件各契約の売買代金として平成四年七月一三日、同月一四日、同月一五日、同年八月五日、同年九月二九日に合計五億四五〇〇万円を現実に支払ったのであるから、原告らは法律上の原因なくして右金額の損失を被り、被告らは同金額の利得を受けたということができ、被告らは、原告らに対し右受領した金員の不当利得返還義務を負う。

(被告らの主張)

原告らが主張する五億四五〇〇万円は、前記本件各契約に至る経緯のとおり、寿地建設が本件各土地の買収資金として被告ネオポリスジャパンに提供した第一期分六億二五〇〇万円の内の四億四五〇〇万円、及び第二期分一億七五〇〇万円の内の一億円を、それぞれ寿地建設のダミーである原告らによる売買代金の支払いを仮装するため、形式的に原告らに割り振ったものにすぎず、真実は寿地建設が被告ネオポリスジャパンに対し、共同事業に対する出資として提供した八億円の一部であって、原告ら自らが本件各契約の売買代金として出捐したものではない。

したがって、被告らには、原告らに対する不当利得返還義務はない。

第三  争点に対する判断

一1  本件における事実の経緯について

前記前提となる事実に、《証拠略》を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 本件各契約締結に至る経緯

(1) 平成三年六月、被告ネオポリスジャパンは、「ロヂャース」という名称で安売店を経営する北辰商事に対し、埼玉県本圧市内の土地約一二〇〇坪をいわゆる地上げによって提供することに成功し、同社の信用を得たことから、同年夏ころ、同社から同県北部で一万坪程度の土地を探すよう依頼された。被告ネオポリスジャパンは、同年七月、同県熊谷市玉井地区に約一万二〇〇〇坪の土地(農地)があるという情報を得て、調査、検討をした上で、同年一二月に北辰商事に右物件を紹介した。北辰商事代表取締役太田実は、何度か同地区の現地を視察し、被告ネオポリスジャパンの代表取締役小野との交渉を重ねた結果、同四年二月二五日、同地区に赴いた際、同人に対し、同地区の土地を三万坪から五万坪買収したいと申し向けた。

(2) そこで、被告ネオポリスジャパンは、前記玉井地区所在の約三万五〇〇〇坪の土地について、第一期分(地権者一七名、合計七三筆、約一万坪、以下「本件第一期分各土地」という。)及び第二期分(地権者三八名、合計一五五筆、約二万五〇〇〇坪〔本件各土地〕)に分けて買収した上で、これを北辰商事に転売することとし、同社との間で、右各土地について開発許可がなされ、同社が同地区へ確実に出店できるようになった段階で、同社との正式な契約を締結するという協議を調えた。

(3) 平成四年一月一九日、被告ネオポリスジャパンは、現地地権者の集会を開催することとし、埼玉県熊谷市所在の仲介業者である訴外建栄デベロップメント株式会社を通じて、本件第一期分各土地の地権者らに対し、それぞれ前渡金名目で各一〇万円を支払い、右地権者説明会に出席するよう依頼した。この集会の席上、被告ネオポリスジャパンは、地権者側から本件第一期分各土地の売却をする旨の確約を取り付けるとともに、売買代金約六億五〇〇〇万円を平成四年四月中に支払うこととし、その金策を開始した。

(4) 被告小野は、被告本吉に対し、被告ネオポリスジャパン所有の埼玉県上尾市内の土地の買取方を依頼したり、被告本吉からの紹介のあった訴外松栄建設株式会社に融資方を依頼したりしたが、いずれも話合いがつかなかったため、本件第一期分各土地の地権者らに対する売買代金の支払いは三ケ月間延期され、平成四年七月一四日から一六日の三日間になされることとなった。この地権者側との延期交渉の際、被告ネオポリスジャパンは、地権者各自にそれぞれ一〇〇万円ずつを支払った。

(5) さらに、被告小野が被告本吉に対し、土地買収資金として三億から四億円の融資をしてくれるスポンサーを探してくれるよう依頼を続けていたところ、被告本吉は、以前一度駐車場の賃貸借契約の件で同人と取引があり、金融業も営んでいた寿地建設代表取締役の津吹を被告小野に紹介した。

(6) 平成四年五月中旬ころ、被告小野は、津吹及び寿地建設の従業員であった訴外伊藤、同倉光義祐(以下「倉光」という。)と会談し、津吹から「私は、金貸しもやっているけれども、この件は金利稼ぎの問題ではいやだ。共同で仕事のパートナーとして位置づけてくれるならやる。私が資金の調達をする係り、小野さんが現地で仕事の全てをする係り、両輪で頑張ればどうにかなる。」などとして、被告ネオポリスジャパンと寿地建設との間の共同事業という形態であれば買収資金の提供をする旨の承諾を得、同社とともに、被告ネオポリスジャパンが地権者らや転売先との交渉を行い、寿地建設が買収資金の提供を行うという内容の共同事業(以下「本件共同事業」という。)を遂行することとなった。そして、津吹は、被告小野との資金提供の交渉の過程で「資金の出し方、それに付随する書類等の件は、全て私に任せて欲しい。」などとして、同被告から融資方法等は全て津吹が決定する旨の合意をとりつけ、「必要証拠書面」として、節税対策上国税当局との関係で必要となる関係各書類を調えることを指示し、被告小野は、津吹の指図に基づき、地権者名簿や公図、登記簿謄本、資金計画表、開発関連業者の関与により作成された開発計画の工程表など津吹が本件共同事業の具体的内容、進行予定等を把握するために必要とされた書類のほか、「申込み書」や「通知書(回答書)」、「申請書」などの対国税当局のためのみに作成された書類等(なお、これらの書類は、被告小野から津吹に提出された後に、同人が手を加え、右のような体裁に整えたものであって、必ずしも真実を反したものではなかった。)を同人に提出した。右の開発計画工程表によれば、本件共同事業に関する農地法の事前審査申請、除外申請、許可申請等に約二年、それ以後の都市開発法上の開発行為の立地承認申請、事前審査申請、許可申請、協議申請等の手続きには、さらに一年半以上の期間が予定されており、また、右「申込み書」添附の「資金の出資(投下)の計画(具体的)案」によれば、本件第一期分各土地及び本件各土地の地権者らに支払うべき買収代金は二六億五七八〇万円と予定されていた。このような交渉及び手続きは、被告小野と津吹との間においてのみ行われ、被告本吉は一切関与することはなかった。

(7) 同年六月一五日、津吹は、被告本吉の経営する訴外勝栄建設株式会社(以下「勝栄建設」という。)の事務所において、本件共同事業に関する合意に基づき、第一回目の資金提供として一億二〇〇〇万円を被告小野に支払った。その際津吹は、「この取引をやるについては、自分にはいろいろ都合があり、表にでたくない。また、自分にはダミー会社がいくつもあるが、税務署に対しての節税対策上どうしてもダミーを使いたい。そのダミーは一人より多い方がいい。」などとして、原告らのほか、レディースカンパニー、秀陽及び丸岡興産の各担当者合計六名を自己のダミーと称し、同人らを同行して勝栄建設の事務所を訪れた上、「私の所のダミーです。いつもこうして念には念を入れて、私の名前も寿地建設も一切表には出さないようになっています。」などと言って、同人らを被告小野に紹介した。ダミーとして紹介された右六名は、津吹と被告小野との金銭のやりとり等の間は、終始無言のままで何ら手続には関与しなかった。被告ネオポリスジャパンは、このように津吹から提供された一億二〇〇〇万円を、本件第一期分各土地取得のため仲介業者に支払った。

(8) 同年七月一三日、津吹は、勝栄建設の事務所において、倉光に運ばせてきた現金二億三〇〇〇万円を机の上に積んだ上、被告小野に対し、「売買のための基本契約書」(以下「本件各契約書」という。)に署名、押印するよう求めた。津吹は、本件各契約書の形態が被告ネオポリスジャパンと寿地建設との本件共同事業にする旨の当初の合意と異なるとして様々な質問をした被告小野に対し、「この仕事は大きいし、利益も出る。そのときの敵は国だよ。税務署だ。今から税金対策をしっかりやっておく必要がある。そのために、細かく綿密な書類等しっかりしたものを作っておく必要がある。」「節税対策上、ネオポリスが原価二七億で売り、利益を出さない形にするのが得策である。だから、売主ネオポリスと買主六名との売買総額は低い方が良い。そしてこの売買契約書は、初めからできない(不履行となる)ようにしてあり、解約金や損害金、承諾料でダミーに支払う形にして、後にそれを分け合うために作成する。損害金などの税率が売買による所得より数十パーセント有利である。この方法で節税をしなければ、儲けが少なくなる。そのため、損害金や解約金などの数字が大きくなっている。」「この契約は、実際には契約ではないのだから、このようなものにお金を出すということはありえない。とりあえず架空の契約だから、表の金は出せない。こんなわけありの契約に金を出すとしたらB(裏金)しか方法がない。私がBを出すならダミーを介して出すのが一番の方法である。私が直接できないから六名をダミーにして表に出し、六名に二七億円を割り振りして売買契約書を作っておく。」「中味の方は、私が作ってあるので任せて欲しい。署名をするなりゴム印を押すだけでよい。」などと説明をした。被告小野は、その翌日である同月一四日以降の三日間に本件第一期分各土地の地権者らに対する合計六億二五〇〇万円の売買代金の支払い期限が迫っており、この支払いができなければ、もはやこの買収事業は頓挫せざるを得ず、寿地建設の他には資金提供者を探す余裕がなかったことから、目前に二億三〇〇〇万円の現金が積まれた状況のもと、寿地建設の経済力を信用し、節税対策上も有利であるならばという理由でこれに協力することとした。

(9) そこで、津吹は、本件共同事業を遂行するために被告ネオポリスジャパンに提供する金員を、形式的に自らのダミーと称する六名にそれぞれ売買代金として割り振り(なお、具体的な売買代金形式での割振りは、前記第二の一1<1>及び後記<1>のとおりとなった。)、被告ネオポリスジャパン及び被告小野は、津吹の指示に従い、本件第一期分各土地につきレディースカンパニー、秀陽及び丸岡興産との間で、第二期分の各土地(本件各土地)につき原告らとの間でそれぞれ売買契約を形式的に締結し、被告本吉は、右被告ネオポリスジャパン及び同小野の売主としての債務を連帯保証した。また、本件各契約書には、立会人が多い方が国税当局との関係で真実らしさが増すとする津吹の発案により、倉光、西江慶次他数名が立会人として署名した。なお、本件第一期分各土地についての売買契約の内容は、左記のとおりのものであった。

<1> 売買代金(二条)

合計七億七四一二万円(但し、レディースカンパニー二億三二二三万六〇〇〇円、秀陽二億三二二三万六〇〇〇円、丸岡興産三億〇九六四万八〇〇〇円。)

<2> 代金支払方法(三条)

(イ) レディースカンパニー

平成四年七月一三日限り(手付金) 二八〇〇万円

同月一四日限り(中間金) 一〇〇〇万円

同月一五日限り(中間金) 一八〇〇万円

同月三〇日限り(中間金) 二五〇〇万円

同年九月三〇日限り(中間金) 一五〇〇万円

同五年七月三〇日限り(残代金) 一億三六二三万六〇〇〇円

(ロ) 秀陽

平成四年七月一三日限り(手付金) 二七〇〇万円

同月一四日限り(中間金) 一〇〇〇万円

同月一五日限り(中間金) 一七〇〇万円

同月三〇日限り(中間金) 二〇〇〇万円

同年九月三〇日限り(中間金) 一〇〇〇万円

同五年七月三〇日限り(残代金) 一億四八〇〇万円

(ハ) 丸岡興産

平成四年七月一三日限り(手付金) 三五〇〇万円

同月一四日限り(中間金) 一五〇〇万円

同月一五日限り(中間金) 二〇〇〇万円

同月三〇日限り(中間金) 三〇〇〇万円

同年九月三〇日限り(中間金) 一五〇〇万円

同五年七月三〇日限り(残代金) 一億九四六四万八〇〇〇円

<3> 被告ネオポリスジャパン及び同小野は、平成四年八月二七日限り、右買主らに対し、本件第一期分各土地の各所有者が作成した各売渡承諾証(各印鑑証明付)の原本を交付する(五条)。

<4> 被告ネオポリスジャパン及び同小野は、右買主らから手付金及び平成四年七月一四日付の中間金の支払いを受けるのと引き換えに、本件第一期分各土地につき、登記簿上の所有者から買主らへの所有権移転請求権仮登記をする(六条)。

<5> 被告ネオポリスジャパン及び同小野は、平成四年九月二二日限り、右買主らに対し、本件第一期分各土地の隣接地所有者全員の各境界確認書(各印鑑証明書付)を交付する(八条)。

<6>(イ) 被告ネオポリスジャパン及び同小野は、右買主らに対し、平成四年九月二九日までに、北辰商事が原告らから本件第一期分各土地を売買代金合計一七億九七一二万円で買い受けることを北辰商事と連帯して請負う(一一条一項)。

(ロ) 被告ネオポリスジャパン及び同小野は、右の請負債務を履行することができなかったときは、レディースカンパニーに対し二億五七一四万二〇〇〇円、秀陽に対し二億五七一四万二〇〇〇円、丸岡興産に対し三億四二八五万六〇〇〇円をそれぞれ損害金として支払う(一一条四項)。

<7> 被告ネオポリスジャパン及び同小野は、一三条(解約権の留保特約)の解約申入れをする場合には、解約承諾料として、レディースカンパニーに対し二億七八五六万八〇〇〇円、秀陽に対し二億二七八五万八〇〇〇円、丸岡興産に対し三億七一四二万四〇〇〇円を支払う(一四条一項)。

<8>(イ) 債務不履行により本件各契約が解除された場合に債務不履行をした者がその相手方に支払うべき損害金は、売買代金の二〇パーセントとする(一六条一項)。

(ロ) 一六条一項の場合であっても、一一条四項の金員全額及び一四条一項の金員全額を一六条一項の金員に加算して支払う(一六条三項)。

(10) また、津吹は、右各売買契約締結に際し、北辰商事店舗開発部次長であった訴外木下和美(以下「木下」という。)の同席を求め、本件各契約書に立会人として署名するよう求めた。これに対し木下は、買う側の企業である北辰商事の人間が、売る側の資金作りのための書類に署名する意味と理由がわからないとして、当初はこれを断ったものの、津吹が「こんなことでは、今日の金も、これからの金もなしにするかもしれない。」などと言い出したため、被告小野が前記のとおり寿地建設からの金員の支払いを必要としていた事情から、「迷惑はかけない。」として木下を説得したところ、同人はこれに応じ、本件各契約書に立会人として署名した。

(11) このような手続きは八時間にも及び、その後津吹は、被告小野に対して、「さあ、お金を持っていってちょうだい。」などと言い、机の上に積んであった金員二億三〇〇〇万円を支払った。

(二) 本件各契約締結後の経緯

(1) その後、津吹は、被告小野に対し、本件共同事業に関する合意に基づき、平成四年七月一四日に八〇〇〇万円を、同月一五日に一億九五〇〇万円をそれぞれ支払った。

(2) 被告ネオポリスジャパンは、このようにして平成七年七月一三日から一五日までの間に津吹から支払われた合計五億〇五〇〇万円の金員を、全て本件第一期分各土地の買収のため、地権者秋谷公子ほか一六名に対する買収代金及びその仲介手数料として支払った。なお、地権者らから取得した右各土地につき、被告ネオポリスジャパンは、所有権移転登記が可能となるまでの間、その土地を確保するために、右地権者らから関連会社名義で根抵当権設定登記を受けるなどして保全手続きをとったが、寿地建設は、右節税対策上自己の名前を表に出すことができないし、また、原告らなどのいわゆるダミーには全幅の信頼を置くことができないなどの理由から、自己名義や右ダミー名義での保全の手続きをとることはしなかった。

(3) このように、本件第一期分各土地の買収を完了した被告ネオポリスジャパンは、当初の寿地建設との本件共同事業に関する打合わせどおり、平成四年七月二〇日から、第二期分の各土地(本件各土地)の地権者三八名に対し、それぞれ五〇〇万円合計一億九〇〇〇万円を支払うなどして、その買収交渉を開始した。

(4) 寿地建設は、本件共同事業遂行の合意に基づき、被告ネオポリスジャパンに対し、平成四年八月五日に五〇〇〇万円、同年九月一八日に三五〇〇万円、同月二九日九〇〇〇万円をそれぞれ本件各土地の買収資金として支払った。このように、津吹及び寿地建設から被告小野及び同ネオポリスジャパンに対して、同年六月一五日、同年七月一三日、同月一四日、同月一五日、同年八月五日及び同年九月二九日に支払われた合計八億円は、売買契約の存在を仮装するため、内五億四五〇〇万円については原告らから被告ネオポリスジャパン及び同小野に対する本件各契約に基づく手付金及び売買代金の形で、残余の二億五五〇〇万円についてはレディースカンパニー、秀陽及び丸岡興産から同被告ネオポリスジャパン及び同小野に対する本件第一期分各土地の売買契約に基づく手付金及び売買代金の形でそれぞれ支払われた。

(5) また、寿地建設の社員であった倉光は、埼玉県熊谷市玉井地区の本件現場に足を運ぶなどして、被告ネオポリスジャパンと本件共同事業についての打合わせ等を担当していたものであるが、同年八月二七日、被告ネオポリスジャパンに対し、右同年八月以降支払われた金員について金の流れ及び現在までの経過、買収事業の進行状況についての報告を求め、また、同月三一日、「九月末に保証金と引き換えに一億円を支払い、保証金は熊谷農協へ預託のこと、二万五〇〇〇坪の地権者に対しての支払う金銭等は別途、申請書を必要とし、その申請書を確認の上融資」などとしたメモ書きを交付し、その後の本件共同事業の進行についての打合わせをした。このように、寿地建設は、同年九月以降も、同社が支払った金員の使途を確認した上、その後の資金提供の条件等を決定するなどして本件共同事業を遂行していった。

2  以上の認定に対し、原告らは、本件各契約は原告らが寿地建設から融資を受けることによりその売買代金を捻出し、真実本件各土地を買い取る意思で締結したものであると主張し、《証拠略》中には、右主張に副う記載及び供述部分があるけれども、《証拠略》によれば、原告ジーアイ及び同武陽産業は、いずれもその実体を有しないいわゆるペーパーカンパニーにすぎず、従業員はおろか、数億円もの融資を受けるについて何ら担保となる資産を有さず、また、弁済の原資を生み出す事業活動すら全く行っていないこと、原告根本は、本件第一期分各土地の買主とされる会社を営む数社の会社役員に就任しているものの、同各社はいずれも、原告ジーアイ及び同武陽産業と同様、資産を有さず、また事業活動を行っていないことがそれぞれ認められ、さらに、右記載及び供述には、数億円にも上る融資が、弁済期、利息なども定められず、担保権の設定なしに行われたとされ、また、売買契約の当事者の代表者とされる者が、その売買の交渉に立ち会わず、代金や条件、対象となった物件等を把握していないなど極めて不自然な点が多いことから、全く信用できず、前掲各証拠に照らし採用することができない。

二  争点1(通謀虚偽表示の成否)について

1 前記認定の本件各契約に至る経緯によれば、本件各契約は、被告ネオポリスジャパン及び寿地建設との間で、本件共同事業によって生じる利益にかかる課税を節減するために、本件各土地について、形式的に原告ら及び被告ネオポリスジャパン及び同小野が売買契約を締結したことを仮装したものにすぎず、契約当事者とされる原告ら及び被告小野は、いずれも本件各契約の効力を当事者間に及ぼす意思がないにもかかわらず、その意思があるかのように仮装することを合意した上でこれを締結したものと認められるなら、通謀虚偽表示によるものとして無効というべきである。

2(一) 原告らは、本件各契約が真実本件各土地を売買する意思で締結されたものであると主張する。

しかしながら、前記認定の本件における事実の経緯、とりわけ、平成四年七月一三日、一四日及び一五日に被告ネオポリスジャパン及び同小野に支払われた金員五億〇五〇〇万円のうち四億四五〇〇万円(約八八%)は、いわゆる第二期分とされる本件各土地の手付金及び売買代金として支払われたものであるにもかかわらず、全て秀陽、レディースカンパニー及び丸岡興産が買主とされた本件第一期分各土地の地権者である秋谷公子外一六名に対する買収代金及びその仲介手数料等として支払われており、また、本件各契約書上は平成四年七月三〇日に原告らから被告ネオポリスジャパン及び同小野に合計一億円の支払いがなされることとなっていたにもかかわらず、現実には同日の支払いはなされていないなど、原告らから被告ネオポリスジャパン及び同小野に対し、必ずしも本件各契約書通りの代金の支払いが行われていないこと、本件各契約書上、債務不履行を原因とする損害金、解約承諾料等は、合計四八億四九四七万六〇〇〇円とされ、本件各契約の売買代金総額とされる一九億二五八八万円に比べ極めて高額(代金総額の約二・五倍、ちなみに、宅地建物取引業法上、宅地建物取引業者がみずから売主となる宅地または建物の売買契約において、当事者の債務不履行を理由とする契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、または違約金を定めるときは、これらを合算した額が代金額の二〇パーセントを超える定めをしてはならないものとされ、これに反する特約は、代金額の二〇パーセントを超える部分について無効とするものとされている〔同法三八条〕。)に設定されていること、本件各契約書には、被告ネオポリスジャパン及び同小野の債務として、本件各契約の締結から約一年後に本件各土地について北辰商事に所有権移転登記手続きをすることが規定されているところ、もともと本件共同事業に関する農地法の事前審査申請、除外申請、許可申請等には約二年、それ以後の都市開発法上の開発行為の立地承認申請、事前審査申請、許可申請、協議申請等の手続きにはさらに一年半以上の期間が予定されており、本件各債務の内容は到底実現不可能なものであり、寿地建設も、本件共同事業における被告ネオポリスジャパンとの交渉や同社から提出された各書面を通じてこれらの各事実を熟知していたものと認められること、また、被告ネオポリスジャパン及び同小野は、本件各契約書上、原告らから本件各契約締結時に手付金、同月一四日に中間金の支払いをそれぞれ受けるのと引換えに、本件各土地につき原告らに対する所有権移転登記請求権の仮登記を行う債務を負うものとされているところ(六条)、被告ネオポリスジャパン及び同小野は右のような仮登記などは行っておらず、現実には、いわゆる第二期分である本件各土地については、同日を過ぎてもいまだ買収交渉段階にも入っていなかったものであり、寿地建設は、これらの事実を知悉していたにもかかわらず、被告ネオポリスジャパンに対し、同年八月五日に五〇〇〇万円、同年九月一八日に三五〇〇万円、同月二九日九〇〇〇万円という多額の金員を支払っていること、被告ネオポリスジャパンは、寿地建設の指示に従い、真実とは齟齬する内容の書面を作成したり、通常の売買契約上の売主であれば買主に対しては秘しておくことが当然であると考えられる情報までをも提供し、また、寿地建設は、本件各契約締結後、被告ネオポリスジャパン及び同小野による本件各債務の不履行があったとされる後にあってもなお、何らこれに異議を唱えることなく、支払われた金員の流れや事業の進行状況等の報告を求め、これを子細に把握した上、その後の資金提供(融資)の計画を立て、これを書面にするなどして被告ネオポリスジャパンに伝えていたこと、本件各契約及び第一期分各土地の売買契約上、被告ネオポリスジャパン及び同小野に対して原告ら外三名の買主らから支払われるべき売買代金の総額は約二七億円とされているところ、この金額は、被告らが本件地権者らに支払うことが予定されていた買収原価二六億五七八〇万円とほぼ同額であり、多大なリスクと労力を要するいわゆる地上げ事業を担当する被告ネオポリスジャパンにとって、著しく利益の少ない内容となっていることなどに照らすと、本件各契約は、通常の売買契約としては極めて不自然な点が多く、当事者が本件各土地を真実売買する意思でこれを締結したものとは到底解されない内容のものであると認められるから、原告らの右主張を採用することはできない。

(二) 原告らは、仮に原告らが本件各土地を取得しなければ、転売による利益が生じる余地がないから、これにかかる税金を問題とする余地はなく、本件各契約を節税対策としての通謀虚偽表示によるものと認定することは、それ自体矛盾であると主張する。

しかしながら、前記認定の本件各契約に至る経緯によれば、本件共同事業において、北辰商事と埼玉県熊谷市玉井所在の土地についての転売交渉を行い、その売買契約の締結の当事者となることを担当するのは被告ネオポリスジャパンであったと認められるから、原告らが本件各土地を取得することを前提としなくても、被告ネオポリスジャパンが地権者らから本件各土地を取得し、これを北辰商事に転売すれば、そこに差益は生じる可能性はあるのであって、節税対策を講じる必要性は生じるのであるから、原告らの右主張は採用することはできない。

(三) 原告らは、真実売買をする意思がなくして、現実に八億円もの金員を醵出することはあり得ないと主張する。

しかしながら、本件において原告らが被告ネオポリスジャパン及び同小野に支払ったとされたのは、原告らが受領した合計八億円の内の五億四五〇〇万円にすぎず、また、後記認定のとおり、右五億四五〇〇万円の出捐者は、寿地建設又は津吹であると認められ、しかも、《証拠略》によれば、被告ネオポリスジャパンは、寿地建設からの資金提供を受けた上で、本件第一期分各土地及び本件各土地を買収し、これらを北辰商事に転売することにより、数十億円の利益を上げることが見込まれていたことが認められ、また、このような本件共同事業は、被告らから原告らへ右各土地の所有権が移転することを前提としないから、原告らに真実売買契約を締結する意思が認められないとしても、寿地建設は、本件共同事業による右のような巨額の利益の分配を受けるために(むしろ、本件各契約は、このような利益に対する課税を節減するために締結されたものであることは前記認定のとおりである。)、数億円程度の金員を提供することは何ら不自然なこととはいえないから、原告らの右主張を採用することはできない。

三  争点3(不当利得返還請求権の有無)について

1 原告らは、仮に本件各契約が通謀虚偽表示によるものとして無効であったとした場合、原告らは被告らに対し、現実に本件各契約の代金として合計五億四五〇〇万円を支払ったのであるから、原告らは法律上の原因なくして右支払金額相当の損失を被り、被告らは同額の利得をしたものということができ、原告らは被告らに対し右金員相当の不当利得返還請求権を有すると主張し、原告らが被告ネオポリスジャパン及び同小野に対し、平成四年七月一三日、同月一四日、同月一五日、同年八月五日、同年九月二九日に合計五億四五〇〇万円の支払いをしたことは前記認定のとおりである。

2 しかしながら、前記認定の本件各契約に至る経緯によれば、原告らは、対国税当局との関係で売買契約の存在を仮装するためだけにのみ、被告ネオポリスジャパンと寿地建設又は津吹との間にいわば単なるわら人形として介在し、形式的に名目上の支払い主体となったものにすぎないのであり、原告らが被告らに支払った右各金員は、いずれも寿地建設又は津吹の出捐によるものと認められるから、原告らには、右各金員の支払いによる損失は何ら認められない。

したがって、仮に右各金員の受領により被告ネオポリスジャパン及び同小野に利得があったとしても、それは原告らの損失において取得されたものとはいえないから、原告らの右主張を採用することはできない。

第四  まとめ

以上によれば、その余の争点につき判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 滿田明彦 裁判官 宮武 康 裁判官 堀田次郎)

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